Founders Trek

スタートアップを始めない理由 - Part 1/9 | The Pmarca Guide to Startups

編集者ノート

マーク・アンドリーセンは、2007年にスタートアップに関するガイドブックを公開しています。このパートではスタートアップ立ち上げの難しさについて指摘されています。

原文:Part 1 - Why not to do a startup | The Pmarca Guide to Startupshttps://pmarchive.com/guide_to_startups_part1.html,
公開: Jun 17, 2007, 翻訳: Sep 28, 2024

本文

注: この記事は、マーク・アンドリーセンの2007年のブログのアーカイブになります。

この一連の投稿では、ハイテクスタートアップの立ち上げに関する私の蓄積された知識と経験の一部を紹介していきます。

私の具体的な経験は、共同創業した3つの会社から得られたものです。1つ目は1998年に42億ドルでAmerica Onlineに売却されたNetscape、2つ目は時価総額約10億ドルの上場ソフトウェア企業Opsware(旧Loudcloud)、そして現在は新しいプライベートな消費者向けインターネット企業であるNingです。

より一般的に言えば、1994年にシリコンバレーに来て以来、私は幅広いスタートアップに関わり、その詳細を知る機会に恵まれてきました。おそらく40から50社ほどのスタートアップについて、十分な知識を持っています。その関わり方は、取締役、エンジェル投資家、アドバイザー、創業者の友人、そして様々なベンチャーキャピタルファンドの参加者としてです。

この一連の投稿では、シリコンバレーのスタートアップ全体から学んだ教訓に焦点を当てていきます。そのため、私が話す内容が私の会社のことを指しているとは考えないでください。多くの場合、私がシナリオや経験について語るとき、それは創業者としてではなく、他の形で関わった名前を挙げていない別のスタートアップのことを指しています。

最後に、私の視点の多くは、シリコンバレーとここにある環境 — 文化、人々、ベンチャーキャピタルの基盤など — に基づいています。ある一部は他の地域や国にも通用するでしょうが、また他のある一部はおそらく通用しないかもしれません。自己責任でお願いします。

前置きはこれくらいにして、最初のテーマに入りましょう。それはスタートアップを始めない理由についてです。

2000年のバブル崩壊後でさえ、スタートアップには本当に神秘的な雰囲気が漂っています。スタートアップを立ち上げることがいかに素晴らしいか、どれほど楽しいか、未来を創造できること、無料の食事、卓球台など、様々な魅力について多くの記事を目にします。

確かに、スタートアップには多くの素晴らしい点があります。私の経験では、以下のようなものがあります:

最も根本的なのは、自分の運命を自分でコントロールできる機会です。成功するか失敗するかは自分次第であり、誰かに指図されることもありません。ある種の性格の人にとっては、これだけでもスタートアップを始める十分な理由になるでしょう。

また、新しいものを創造する機会も魅力の一つです。いわゆる白紙の状態から始められるのです。既存の大企業が通常直面する制約にとらわれることなく、まだ存在しない製品を想像し、それを現実のものにする能力 — というよりむしろ義務 — があります。

世界に影響を与える機会も重要です。人々に新しいコミュニケーション方法を提供したり、情報共有の新しい方法を生み出したり、新しい協働の形を提案したりと、世界をより良くするためのアイデアを実現できます。低所得者層がより簡単にお金を借りられるようにすべきだと考えるなら、Prosperのようなサービスを始めるのもいいでしょう。テレビが無限のチャンネル数を持つべきだと思うなら、Joostのようなサービスを立ち上げることもできます。コンピューターはUnixとオープンスタンダードに基づくべきで、独自技術に依存すべきではないと考えるなら、Sunのような会社を設立することもできるでしょう。

理想的な企業文化を作り出し、自ら選んだ夢のチームと働くことができる点も魅力です。毎日楽しみながら、協力して働く人々を中心とした文化を作りたいですか?あるいは、仕事でもプライベートでも非常に競争心の強い文化を望みますか?最先端の革新的な技術開発に集中する文化はどうでしょうか?それとも、設立当初からグローバルな視点を持つ文化を目指しますか?自分の理想に合わせて文化やチームを構築できるのです。

そして最後に、お金の問題があります。適切に運営されたスタートアップは、もちろん非常に収益性が高くなる可能性があります。これは単に個人の欲望の問題ではありません。うまくいけば、チームや従業員も大きな恩恵を受け、家族を支え、子供を大学に送り、夢を実現することができます。これは本当に素晴らしいことです。そして、運が良ければ、起業家として最終的に社会をより良くする重要な慈善活動を行うことも可能になるでしょう。

しかし、スタートアップを始めない理由の方が多く存在します

まず、最も重要なのは、スタートアップがこれまで経験したことのないような感情の起伏の激しさをもたらすということを認識することです。

一日のうちに、世界を手に入れられると確信して有頂天になる瞬間から、数週間後には破滅が待っているかのように完全に打ちのめされた気分になり、そしてまた元に戻る、ということが繰り返し起こります。

何度も何度も、このサイクルが続きます。

これは精神的に安定している起業家でさえ経験することなのです。

実際に行っているほぼすべてのことに対して、非常に大きな不確実性と非常に大きなリスクが伴います。製品は予定通りに出荷できるでしょうか?十分な速度は出るでしょうか?バグが多すぎないでしょうか?使いやすいものになるでしょうか?誰かが使ってくれるでしょうか?競合他社に市場で先を越されないでしょうか?メディアに取り上げてもらえるでしょうか?誰か会社に投資してくれるでしょうか?その重要な新しいエンジニアは入社してくれるでしょうか?主要なユーザーインターフェースデザイナーが辞めてGoogleに行ってしまわないでしょうか?このような疑問は尽きることがありません...

良い方向に進む日もあれば、悪い方向に進む日もあります。一般的に受けているストレスのレベルによって、これらの一時的な出来事が信じられないほどの高揚感や落胆へと増幅され、猛烈なスピードと大きな振れ幅で変動します。

楽しそうですか?

次に、スタートアップでは、自分で動かない限り、絶対に何も起こりません

これは、スタートアップ未経験の創業者や従業員を戸惑わせる点です。

既存の企業では — どんなに運営が悪くても士気が低くても — 物事は進んでいきます。ただ進むのです。人々は出勤します。コードは書かれます。ユーザーインターフェースはデザインされます。サーバーは準備されます。市場は分析されます。価格は研究され決定されます。営業の電話はかけられます。ゴミ箱は空にされます。このように、様々なことが自然と行われるのです。

スタートアップには、既存の企業が持つような確立されたシステム、リズム、インフラストラクチャーがありません。

スタートアップでは、コードが書かれない、ユーザーインターフェースがデザインされない... 人々が出勤しない... そしてゴミ箱が空にされないということが非常に起こりやすいのです。

創業者であるあなたが、これらすべてのシステム、ルーティン、習慣を整え、全員が実際に漕ぎ出すようにしなければなりません。正しい方向に漕ぐことはさておき、とにかく漕ぎ出すこと自体が初めは十分に難しいのです。

そして、あなたがそれを行うまで、絶対に何も起こりません。

もちろん、自分で行わない限りは。

ゴミ箱を綺麗にすること楽しむことです。

第三に、多くの「ノー」を突きつけられます

営業経験がない場合は、あなたは頻繁に断られることにはあまり慣れていないことでしょう。

それはあまり楽しいものではありません。

セールスマンの死』と『グレンギャリー・グレン・ロス』を観てみましょう。

大まかに言えば営業とはそういうものです。

潜在的な従業員、投資家、顧客、パートナー、記者、アナリストなどから「ノー」と言われ続けることになります。何度も何度も繰り返しそう言われます。

そして「イエス」を得たときでさえ、半分くらいの確率で2日後に電話がかかってきて、答えが「ノー」に変わっていることがあります。

作り笑顔の練習を始めた方がいいでしょう。

第四に、採用は非常に厄介な問題です

あなたは驚くほど多くのウィンドウショッパーに出会うことでしょう。

多くの人がスタートアップの一員になりたいと考えていますが、HPやAppleの快適な仕事を離れる時が来ると、尻込みして留まります。

大企業のエンジニアや中間管理職にとって、採用プロセスを経てスタートアップに魅了されることは、実際に参加したり苦労したりすることなく、スタートアップのスリルを間接的に体験できる刺激的なイベントのようなものです。

スタートアップの創業者としてチームを採用しようとする際、このような状況に何度も遭遇することでしょう。

1994年、ジム・クラークが新会社を立ち上げることを決めた時、私はシリコンバレーの様々な企業で働く約12人の中の1人で、後にNetscapeとなる会社への参加について彼と話をしていました。

私だけが最後まで「はい」と言い切りました(主に22歳で、断る理由がなかったからです)。

他の人々は尻込みして、参加しませんでした。

これは、1994年当時シリコンバレーで最も成功した企業であるSilicon Graphics Inc.を率いた後の、業界の伝説ジム・クラークの案件だったのです。

このような状況を考えると、一般の創業者にとってはどれほど困難なことか想像できるでしょう。

そして、ウィンドウショーパー達を耐えて、実際に人を雇うことができたとしても、採用の成功率は50%を超えることはないでしょう。それも、採用が得意な場合の話です。

つまり、雇った人の半分以上がうまくいかないということです。彼らは怠惰すぎたり、動きが遅すぎたり、簡単に動揺したり、政治的だったり、躁鬱だったり、精神的に不安定だったりするかもしれません。

そうなると、そういった人々と一緒に仕事を続けるか、解雇するかの選択を迫られます。

これらのどの部分が楽しそうに聞こえますか?

第五に、神のご加護を。いずれ幹部を雇わなければならない時が来ます。

一般社員の採用が難しくリスクが高いと思っているかもしれませんが、エンジニアリング担当VP、マーケティング担当VP、営業担当VP、人事担当VP、法務担当役員、CFOなどの採用を始めると、さらに大変になります。

第六に、労働時間の問題があります。

最近シリコンバレーでは、ワークライフバランスについて多くの議論がなされています。スタートアップを立ち上げながら、同時に充実した私生活を送ることができるはずだという考え方です。

今は個人的には、この考え方に大いに共感します。

そのため、私の会社(少なくとも最近の2社)では、仕事量や労働時間によって社員が疲弊しきってしまわないよう、できる限りの対策を講じるよう努めています。

しかし、これは非常に難しい課題です。

実際のところ、スタートアップは非常に濃密な経験であり、最良の状況下でも人々から多くのものを奪います。

ワークライフバランスを重視したいと思っていても、資金が底をつきそうで、製品がまだリリースされておらず、ベンチャーキャピタリストが怒っていて、メンロパークにあるKleiner Perkins出資の競合他社(従業員の平均年齢が19歳くらいに見える会社)に負けているような状況では、簡単にはいきません。

そして、そのような状況が大半を占めることになるでしょう。

たとえ従業員のワークライフバランスを保つことができたとしても、創業者である自分自身のバランスを保つことは確実に難しいでしょう。

(ちなみに、長時間労働がストレスを増幅させることは言うまでもありません。)

第七に、スタートアップの企業文化が簡単に歪んでしまう可能性があります

これは、上記の第一と第二の問題が組み合わさった結果です。

これは感情的な浮き沈みが、あなた自身だけでなく会社全体に混乱をもたらす状況です。

どの会社でも、企業文化が「定着」するまでには時間がかかります。初めて集まったチームが、自分たちが何を大切にし、何を重視するのか、そして課題や逆境にどう向き合うのかを集団として決定するまでには時間を要します。

最良のケースでは、人々が本当に団結し、お互いをサポートし、夢の実現に向けて一丸となって懸命に努力するという素晴らしい力学が生まれます。

最悪のケースでは、広範囲に及ぶ自己強化的な苦々しさ、幻滅、皮肉、士気の低下、経営陣への軽蔑、そして落胆が蔓延してしまいます。

そして、創業者であるあなたは、自分が思っているほどこの状況に影響を与えることができません。

どちらの方向に進むことが多いか、想像できるでしょうか。

第八に、*予期せぬ要因(Xファクター)*が突然現れて、あなたに直撃することがあります。そして、それに対して何もできないことがあります。

株式市場の暴落。

テロ攻撃。

自然災害。

より多くの資金を持ち、より経験豊富なチームを擁する新興企業が、あなたよりも長期間にわたってステルスモードで懸命に取り組んでいたプロジェクトを、突如として製品化し、市場を急速に支配してしまうことがあります。そうなると、あなたのビジネスチャンスは完全に閉ざされてしまいます。しかも、彼らがそのプロジェクトに取り組んでいたことすら、あなたは知らなかったのです。

最良のシナリオでも、このようなXファクターによって資金調達の機会が突然閉ざされたり、顧客が購入を遅らせたり取り消したりする可能性があります。最悪の場合、会社全体が閉鎖に追い込まれることもあります。

ロシアのマフィアがあなたのサービスを通じて何百万ドルもの不正資金を洗浄し、その結果クレジットカード会社があなたの会社との取引を停止するといったことも起こり得ます。

冗談だと思いますか?

さて、ここからが本題です:

これまで、どんな製品を作るべきか、それをどう作るか、どうマーケットに出すか、そして競合の中でどう目立つかについては全く触れていません。

会社が実際に行う中核的な活動に関するリスクは、これからまだ待ち受けています。それらについては、このシリーズの今後の投稿で議論していく予定です。